旧友とばったり。

前回のコラムは少し堅くふざけがたいテーマだったから今回は最近の私の出来事を書こうと思います。

 

私にはかれこれ10年以上の付き合いになるかなり特殊な旧友がいる。
理学療法士を目指していた学生時代、彼は私にとって「最も理不尽な老害」のような存在だった。
お世辞にも優等生とは言えない「ダメなおじさん」のくせに、説教する時だけは一流の教育者面をする。
私はそのたびに「オメェにだけは言われたくねぇよ」と、心の中で毒づいていたものだ。
あれから10年。彼は更におじさんになり、私もおじさんになった。
お互い角が取れて飲みに行くようになっても、彼の「自分中心」な性質だけは、天然記念物のように大切に保護されていたらしい。
去年の2月、彼から「相談がある」と食事に誘われた。
「放課後等デイサービスをやりたいんだ。お前からも家族に説明してくれ」
彼の情熱も電話のやり取りで重々理解できていた。その上で経営者として経営目線のシビアな話を切り出した。
ところが、いざ対話が始まると、そこには深い溝があった。
私がどれほど現実な話しをしても、彼の視線は常に雲の上を追いかけていた。
私の言葉は彼という巨大な情熱のフィルターで全て「夢」へと変換され、議論は一向に噛み合わない。
結局、私は先輩の壮大な壁打ち相手をさせられただけで、一晩が終了。
「相談って言葉の意味、一度調べてみてください」と半ば呆れながら店を出たのを覚えている。
そんな彼と、先週末、とあるおもちゃ屋でばったり遭遇した。背後から聞き覚えのある独特な声と存在感。まさかと振り向くと教頭先生風の彼がいた。
声をかけると、彼は明日の天気でも報告するかのように、さらりと言った。

 

「放デイ始めたんだよ~」

 

驚きよりも先に、脱力感が襲ってきた。
あれだけ鼻息荒く熱弁を振るい、私の言葉は全スルーして、学生時代はさんざん私に常識を説教しておきながら、いざ夢を叶えたら相談にのった私に事後報告。
しかも、ここでおもちゃ屋に立ち寄らなければ、私は一生知らされないままだったのではないか。
本当に、どこまでも自分勝手で、どこまでもダメなおっさんだ。
だが、認めざるを得ない。
あの現実味を欠いた支離滅裂な情熱を、彼は本当に「形」にしてしまったのだ。
かつての「ダメなクラスメイト」は、いつの間にか一城の主になっていた。
相変わらず失礼で、相変わらず不器用な人だけど、その執念だけは、ちょっとだけ……いや、かなり癪に障るほどカッコいいじゃないか。